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仕事部屋

本日3日目。

劇場入りしてからはあっという間で本日が3日目、ゲネを2回やっての初日は力みとトチリとで初日らしい立ち上がり、劇場入りしたらダメ出しも稽古もしないことにしているんだけど今回はどうしても諦めがつかず2日目にもちょっとだけ稽古したりして、芝居の出来としては2日目になってようやく初日が来た感じ。
ご来場の二村監督が「初日にいいテンションで当たりが出ちゃうと2日目にちょっと気が緩んでよろしくない出来になったりするから2日目は身内には観られたくないだろうなあと思ったんだけど今日しか来られなかったから」と言ってくれたけど、おじさんたちは立ち上がりが遅いので。

その昔、初日通信という演劇評のミニコミがあって、初日には評論家が来るというプレッシャーがあった、劇団を始めた頃には「初日に仕上がっててナンボ」の厳しさが売りの初日通信で褒められると舞い上がり、貶されればがっつり落ち込んでいた、段々図太くなって劇評が怖くなくなった頃、初日通信はもう発行されなくなっていた。

初日と2日目の芝居に違いがあるのはお客さんに対して不誠実なような気がするから意識せずにやりたいという考えと、芝居が生ものである以上違いがあって当たり前なんだし日々もっといい芝居にしようと志してこそじゃあないかと思うところもある、役者はもちろん毎回ベストを目指すものだけど演出がベストを尽くせるのは稽古場。

コヤ入りしてからこっちの方がいいという発想があっても「もう初日が開いたんだし」と提案するのをやめるか、提案して稽古して変更するか、それによって役者やスタッフが体力的気力的に自分なりの過ごし方をすべき貴重な劇場での時間をどれほど消費しなければならないか、スタッフはともかく稽古が充分でないままに直前の変更を本番でやらなければならない役者たちの負担を考えると、無闇にできるものではない。
故に「初日が開いたら芝居は役者のもの」と割り切って手放して、ダメがあっても飲み込み、変更プランなど持たないようにしてきた、が、今回ばかりはどうにも割り切れずに未だ悪あがき。

稽古場で見えなかったことが劇場に入ったらくっきり見えた、それはタイミングの問題じゃなくて空間の問題で、ゲネでわかったことだから初日にクリアできてもいいことだったのだけど、やっぱりおじさんたちは立ち上がりが遅い、結果それが不安定さを残した初日、だいぶ安定してきた2日目、という違いになった。

どこがどう変わったわけでもないのにほんの一言の演出でがらり見え方が変わるのが芝居、ホンの持ち味もストライクゾーンを外れると鼻についたりする、映画や小説のように完璧なところだけを残して創り上げることができないから、お客さんには野球の試合と同じもんだと思って観て欲しいのだけど。

もちろん出来のばらつきがあったって、最低限のここんとこ、という仕上がりにはなっているから、大したことじゃないのかもしれないが、投げ出すわけにもいかん、初日が開いたからといって諦めずにやれるべきことは全部きっちりやりましょう、というのが初日のダメだし。

本日、上演後(21:30~予定)にアフタートークがあります。
ゲスト:いしかわじゅん(漫画家・小説家)、池島ゆたか(俳優、映画監督) 司会:小松杏里(演出家)
モグラ町からは龍昇、前川麻子が参加予定。
トークは期間中に観劇(予約)の方はどなたでも無料でご入場戴けます。
詳細は劇場にお問い合わせください。⇒こまばアゴラ劇場 03-3467-2743
  1. 2010/10/29(金) 11:06:21|
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劇場入り、前夜。

面白い!と思うことは、日々刻々と変化する。
自分の目がどこに向いているのかを知るのに、芝居作りはちょうどいい。
あんな小説を書いたときのあんな気持ちや、あんな人と出会ったときのあんな気持ちや、あんなことがあったときのあんな気持ちをかき集めて、モグラ色のゼラを通して、しょぼしょぼしたおっさんたちを照らす。

大事な人たちを想いながら、大事な気持ちを丁寧に選んだつもりなのだけど、伝わるかなあ、気に入ってもらえるかなあ、のびのび楽しめるかなあ。

不安があるようで、その実、自信満々だ。
一緒にやってる人たちが、何よりそこんところを汲んで、「ああ、マエカワは今これをやりたいんだ」「マエカワには今これが面白いんだ」と、「よし、じゃあそれをやろう」と、大切な人生の一部分を丸ごと差し出して関わり合ってくれた時間があるから。

この人たちと芝居を作れるなんて、なんと贅沢なことか。
それをまた、どうぞどうぞとお客様に差し出せるなんて、なんと幸運なことか。
こんな芝居、きっともう、二度とやれない。

お芝居に焦がれてもなかなか触れられない人、お芝居に触れていた時間を手放してしまった人、
遠巻きに眺めるくすぐったさを愛して止まない人、怖いもの見たさで恐る恐るに覗きたい人、
どっしりそこに足を置いている人。
すべての人に、こんな芝居があると、知ってもらいたい。

モグラ町1丁目7番地は、お芝居です。
どなたさまも、ご都合戴ける限り、お足運び下さいますようお願い致します。


模型

  1. 2010/10/25(月) 02:56:01|
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お前が死んでも幕は開く。

連日の通し稽古、当たりも出たし外れも出た。
ぎりぎりに仕上げて劇場入りすると、初日が開いてからの本番に当たりや外れが出てしまうから、稽古場で早めに仕上げて一通りの当たり外れを出しておくのは、巧い仕上げ方だと思っている。
ま、それでもやっぱりお客さんの前に出れば当たったり外れたりしちゃうものなんだけどね。

今回はまだだね、と言われていた「死ね」も出た。
口が悪いなあと自分でも恥ずかしいのだけど、本当にそう思うんだからしょうがない。

演技することを「そう見せる」ことだと思っていて、「そう見せる」ことが先だって「ほんとのこと」に辿りつかないまんまに舞台の上に立つなんて恥ずかしいこと、させたくない。

お客さんはバカじゃない。
嘘は嘘とわかる。
判った上で、観てくれるんだし、拍手だってしてくれる。
嘘つく必要なんてない。
ほんとのことを曝す覚悟のない奴に誰が金払うもんか。

ばーか。死ね。と、思う。
やれ。
できなきゃ死ね。
それだけの話。
ワークショップじゃないから、何をどうすればいいかは教えない。
誰が死んでも幕は開く。ショウ・マスト・ゴウ・オンてやつだ。

などといくら呪っても、明日の2回と日曜の1回で稽古はおしまい。
月曜に劇場入りして舞台の仕込み、火曜にゲネプロして水曜が初日。
演出の役割は、稽古場でおしまいだ。
劇場に入れば舞台監督が全部ちゃーんとことを運んでくれる。

稽古と本番は、違う。
世界が、次元が、まるで違う。
楽屋や袖を使わないモグラ町では殊更にそう。
しかも今回は暗転も転換明かりも使わない。
セコンド抜きのアルティメット・ファイティング。

なんてこたあない、私は、自分が気持ち良く拍手できる芝居を作るだけ。
ほんとにそれだけを切望して、この二ヶ月じっとパイプ椅子に座ってるんだから。


あ、「黒い報告書」の週刊新潮、発売中です。

  1. 2010/10/22(金) 02:39:21|
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ワークショップ再開。

11月から再開のワークショップ「素の表現方法」、本日からお申し込みの受付を開始します。

「モグラ町1丁目7番地」出演者では、吉岡睦雄・津田牧子・ローザ桂木がワークショップの出身。
小林千里・吉田重幸・渡辺真起子もときどきワークショップに参加しています。
音楽の熊坂義人も、ワークショップに参加したことが出会いでした。
演出助手の小形くんもワークショップ出身、因みに小形くんは小学3年生から通っていたうちの娘の同期。
娘はその後、吉岡らワークショップのメンバー数人が参加した劇団公演への客演も。

今回、ワークショップの人たちはモグラ町の稽古場を自由に見学できる特典があり、稽古場には連日見学者が通って出演者にあれこれ質問したり感想を伝えたり。
昨年に引き続き、稽古場付きも募集して、名乗り出たウッチーが、一本の芝居が出来上がるまでみっちり付き合って、稽古場ではいくつかの代役もこなしました。
感心した龍さんが「来年はウッチーを出そう」と、大抜擢。
来年度の龍昇企画公演「台所純情」(作・演出/前川麻子、出演/龍昇・吉岡睦雄・吉田重幸・前川麻子)への出演が決定。

たくさんの出会いと学びがあります。
演出志望の方、演劇経験のない方も、ふらりどうぞ。
公演を控えた劇団のグループ参加なども歓迎です。

見学は、来年度から開放の予定。
毎月募集情報が更新される情報サイトをチェックしてください。
  1. 2010/10/21(木) 01:45:28|
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睦雄とツダマキのこと。

吉岡睦雄が最初にうちのワークショップに来たのは何年前だったか、ともかく彼はまだ大学生で、へらへらしてた。
普段は「吉岡」と呼んでるけど、映画関係の人たちが「睦雄さん」と呼ぶので、この頃よそでは「睦雄」と言うようにしている。そういう人たちの前での私は、「睦雄さんのお師匠さん」と言われるので、もうそうなるとよそではあんまり吉岡を貶せないし、吉岡ももうワークショップには来ていないから、この稽古場が気兼ねなく貶せる最後のチャンスなのかもしれないけど、吉岡、優秀なんだよなあ。

「インドに自分探しの旅をする」と言ってワークショップを辞めた吉岡が「インド、嘘でした」とぬけぬけ出戻ったその後か、本田唯一くんが受付要員として津田牧子を連れてきた。

一時期うちの芝居の受付にはずらりピンク女優がお手伝いをしに来てくれていた時期があって、ツダマキはその中でも一番たくさん関わってくれていたんだと思う。
当時は鈴木敦子と名乗っていたので、私は今も敦子と呼んでいる。
やたら若く見えるくせにいい年いってるしっかり者で、ものすごく清潔なピンク女優だなあと気に入って、最初のモグラ町から配役した。
平井家の兄弟とは腹違いの娘・敦子。お話の中では、2年前が高校の卒業式で、去年は結婚式だった。

二人とも、舞台経験の中でモグラ町のキャスティングは大抜擢だったろうと思う。
だから、稽古場でも気配り細やかに働くし、並外れた集中力と緊張感を発揮する。

吉岡は、何を指示しても飲み込みが早くて、おじさんたちだと10まで説明してようやく意図が伝わる演出も、1を言えば意図はおろか効果まで読んですぐに体現してくれるから、正直吉岡がいると稽古場はとても楽だ。
おじさんたちはみんな、平井家の末っ子・欽也に頼り切りで、台詞を忘れようがトチろうが、吉岡がなんとかしてくれるとはなから丸投げしている始末。

よしおか


ツダマキは「モグラ町」以降ワークショップに通うようになったので吉岡ほどの馴染み方ではないけれど、見事に台本を隅々まで頭の中に叩き込んでいるので本当に心強い。
転換の段取りでもダンスの振り付けでも、要領よく覚えて正確にこなすから、ツダマキがきっかけになっているところでツダマキがトチると、当たり前のようにみんながトチることになる。

あつこ


それは、彼らが二人とも一緒に芝居をやる上で圧倒的に信頼できる人柄の持ち主であるということで、こればっかりは私を見習わずにいてくれたのが幸い、彼らは並外れてきちんとしたまっとうな人で、芝居なんてのは本当はそういうところが一番大事だったりする。

勿論、芝居の技術においても信頼がある。
「そのまま、そこにいる」という技法をきちんとやれる役者は、少ない。
特に、龍さんみたいに道のりがあって辿り着くのではなく、最初からそのままそっちに踏み込めるのは、何かしらそういう素質があるってことなんだろう。

舞台の上にいる人と、それを観る人の隙間で、彼らはふらふら覚束ない。
それは、素人芝居ってことでもなく、ナチュラルな表現をするってことでもなく、本当に、意識の部分や感覚の部分での理解がないとできないことで、私は「ふらふら覚束ない」ことが舞台上の理想的な立ち方だと思っていて、彼らにはそれができる。
「ふらふらした覚束なさ」を追究している私にとって、彼らは最強の役者だ。
吉岡やツダマキが今の結果を見せていなければ、私はワークショップを続けなかっただろう。

が、彼らは実に「へたれ」だ。
「決め」とか「けれん」とか「かぶく」とか「テンション」とかに弱い。
こっち側の人としてびしっとやらなきゃならない瞬間を、掴めない。スケベ心に欠ける。
塩野谷さんみたいな、華を背負った芝居は絶対にできない。
たとえばそれは、演歌歌手が客に投網を投げて引っ張ってくるように歌う、そういうのと似ていて、投網を放ることができても握力が弱くて引っ張ってこられない、へたれ役者。

控えめな人柄は仕事の現場で愛されるに違いないのだけど、芝居まで控えめでどうするよ。
私みたいに、その秀でた覚束なさを重宝がる演出家なんて、そうそういないぜ。

まずまずで、まだまだ。
少しずつ図太くなって、いつかは華を背負うだろう。
ああ、それ観たら、私、泣くだろうな。

吉岡睦雄と津田牧子の「モグラ町1丁目7番地」、いよいよ来週から。
  1. 2010/10/19(火) 01:04:17|
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稽古休み。

来週10/21発売の週刊新潮「黒い報告書」も二度目の登板、10/30発売の映画芸術誌にも書評原稿を書きました。
入校したし届けも出したらしいしバンマスとの飲み約束が来週に延期になったしでうきうきと人形町で飲んだ暮れて朝帰り、丸一日何もせずに寝てマッサージ行って茄子のキーマカレー作ってDVD観て、来週からは楽団付きの通し稽古が一日二回で大詰め、あっという間に劇場入りして色んな人と会って飲んで喋ってる間にいよいよモグラシリーズも終わる。

もう初日が開くまで一切芝居以外のことができなくなる時期、こないだ飲んでたら龍さんがぽろっと「まあアサコは演出だから色々大変だろうけど」と言ってくれた、役割なんだから大変なのが当たり前で不満などないけれど、龍さんに限らず「身体の調子は大丈夫なの」とか「ちゃんと眠れてる?」とかモグラの人たちは皆大人だから時々さりげなく気遣ってくれたり労ってくれたりで有り難い。

役者たちももうどれほど体調悪かろうが身内に不幸が起きようが千秋楽まではまったく身動きが取れなくなる、去年のモグラ町1丁目のときには、碧南市での公演の前夜に龍さんのご母堂が亡くなり、龍さんは北海道の実家に駆けつけてから碧南市まで来て本番やって終演後に劇場からまた北海道へと戻って行った、奇しくも内容は結婚式のお話で、いやまあ演劇人生てえのは時々そういう切ない味わいがあるやなあ。

【モグラ町1丁目7番地】でのアフタートークは10/29(金)ゲストは漫画家のいしかわじゅん氏と映画監督の池島ゆたか氏、司会に小松杏里氏が来てくれることになった、杏里さんはかつての私の劇団でも演出協力をしてくれている大先輩の演出家、その当時赤ん坊だったうちの娘を劇場で抱いている姿を見かけたお客さんが「マエカワが産んだのは小松杏里の子どもだったのか!」と誤解していたが、違います。アフタートークは期間中のチケットをお持ちの方はどなたでも無料だそう。

同じく公演期間中の特別ワークショップが10/31(日)18:00~21:00、こちらは参加費2,000円、お申し込みは公演初日10/27から劇場受付にて先着20名限定で承ります。モグラ組からは吉岡睦雄・ローザ桂木・津田牧子・小林千里が参加、おじさんたちも気が向いたら参加してくれると思いますが、きっとへとへとでしょう。詳細は【モグラ町1丁目7番地】をご確認ください。

それと、いくつかお問い合わせ戴いているのですが、稽古場は一般公開ではありません。
演劇・映画関係者の方々をお誘いしているだけで、残念ながら一般の方の見学を募っていませんので悪しからずご了承ください。


11/20~21には再開のワークショップ【素の表現方法】@東池袋・サンライズホール、お申し込みの受付は10/21から、情報サイトまだ更新していませんがサイトからお申し込みができます。

朝日カルチャーセンター主催の小説教室も11月から再開、月1回全5回の実作講座、これまで提出された作品には読んで面白いものが多数、受講者の皆さんはハイレベルなのに講師はまだまだビギナー、教わることの多い時間なので再開が楽しみ。

先週から犬息子を親方んちに預けていて、親方が三日に1回くらい写真を送ってくれるんだけど、稽古休みで家にいるとぽかんと物足りなさが込み上げて、声に出して「帆太郎に会いたいなあ」と呟いていたりする、もう何年か離れて暮らしていてもリアル娘に会いたいなあなんて思うことなどないのに、「元気?」なんてメールのやり取りができない分、動物は触れる実感が存在のすべてで、その潔さが切ない。

そういう実感は芝居のそれに似ているかもしれない、終われば消える、形のまま残るものが一つもない、その果無さがあるから、その瞬間だけを映し出せるんだろうし、伝わる力強さがあるんだろう、トークへのお呼ばれが決まってから井土さんの映画に感じた力強さについて考えていたのだけど、井土さんは、何を残すかを考えるんじゃなく今何を生み出すかを考える人なんじゃないかとふと思った。

映画一揆 井土紀州201011/22(月)上映後のアフタートークに井土紀州監督・吉岡睦雄とともに参加します。映画関係のイベントに参加するのは「K・T」の公開記念トークショーの司会をやって以来、あのとき見物していた吉岡とトークするなんてなんとも不思議、吉岡とは普段もあまり話すことがないからネタ集めないとなあ。

さあさあ、ほんとに明日からは追い込み、あと20回くらい観れば全部消えてなくなるモグラ町。

  1. 2010/10/18(月) 02:56:40|
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ちーちゃんと聡子のこと。

小林千里さんは、最初の「モグラ町」のときに龍さんがキャスティングして、私が初めて会ったのは顔合わせのときだった。

私の台本はアテ書きなので、最初の「モグラ町」は「真夜中のマクベス」に出ていた人たちをイメージして書いていて、キャストが決まって全員の顔合わせをしてから数日後の稽古入りまでにホンを書き直す、ということになっていた。
その人の芝居を観てなくても人柄を知っていれば書けるのだけど、元々の「モグラ町」にはいなかった役だから平井家の後妻で兄弟の幼なじみと年齢が一緒の智子(サトコ)さん、という役回りがお話の都合優先になってしまっていて、ちーちゃんに合わせられるのは口調とかその役の性質とかだけだった。

しかしまあ、当たり前のことなのだけど、やってしまえば智子さんはちーちゃんの役だしちーちゃんは智子さんなのである。それが、二年目三年目と時間を経て、できあがったモグラ町の智子さんだ。
ダメダメな兄弟に振り回されても最後にはちょっといいこと言って家族を取りまとめる、という健気なお母さん像じゃない。
あんたがダメだろと突っ込みたくなるような、お母さんとしてはかなりダメなお母さんで、血のつながらない兄弟にも気遣われて、後妻にきてから授かった娘も決して良い子ではなくて、なんだかどうしようもない。
そういうのをけらけら笑って何も悩まずにやり過ごしてるのが智子さんだ。

三年目にして、兄弟たちがやっと智子さんのしょうもなさを受け入れる。
苦労を気遣って「俺らと智子さんは違うんだから」と一目置いていた兄弟たちにも、「まあ、その実あいつが一番どうしようもない人生やってるってことだよな」と飲み込む。
その心中は語られないけれど、想像するとなんとも切ない。

そういう智子さん像は、ちーちゃんから出て来た。
ちーちゃんは、まるで鈍臭いしあちこちズレてるしで、しょーもないおばちゃんなのだ。
いつも出番が少ないからホンではちゃんと見せ場を入れておくんだけど、毎年決まって稽古中にカットされてしまう。「良い場面もらっちゃった」と喜んで気合い入れ過ぎて良い芝居になっちゃって「全然ダメじゃん」とか言われてカットされる。
カットされると一応はしょんぼりするんだけど、千秋楽が近くなった頃に、「わかった!あれはああすればよかったんだ」とか言い出す。
あー鈍臭い。

ちーちゃん

近所にいたよ、昔。
身体がすくすく育っておつむのおいついてない鈍臭い子。
私はいつもそういう子にいらっとして意地悪して、でもその子は泣かないで、けらけら笑いながら「遊ぼ」ってまたくるの。こっちはまたいらっとするんだけど嬉しいの。
あの子は、どんな大人になったんだろう。
きっと私みたいな意地悪でずる賢いのにあれこれ押し付けられてしんどい人生になっちゃうんだろう。
それでも「あっはっはー」とかって笑って「へーきへーき」って生きてるんだろう。


役名じゃない方の聡子ちゃんは、去年の「モグラ町1丁目」からの参加。
前回は轟聡子で今回は何故かローザ桂木という名前に変えているけど、決してふざけているわけではない。
むしろ誰よりも真面目だし、時には子ども並みの集中力を発揮する。時には。

私との付き合いは誰よりも長い。
ほんとうに子どもの頃からの友達で、共にちょっと特殊な体験をしてきた仲間の一人だ。
大人になった彼女がものすごく全うに生きて来たのは、その特殊さを誰よりもよく理解した上で、「こんな過去があると絶対まともな大人になれない」と思ったからなんじゃないかと想像している。

けれど、案の定そうなってしまった私を未だ「アサコ先輩」と呼んで慕ってくれているところや、やっぱりそもそも聡子ちゃんはちょっと変ってみんなが承知できるところや、「全うに生きよう」とするバランス感覚みたいなものは、まさしく特殊な体験の中で培われたものだと思う。

芝居の経験はないけれど芝居の在り方を骨の随のとこで知っていて、役者じゃないけれど役者のなんたるかを肌合いで知っているから、素人とも玄人とも言えない、ちょっと変なポジションの人だ。

平井家の文太くんが求婚した由美子さんの、双子のお姉さんの希美子さんて役を考えついたとき、これは聡子ちゃんだと確信して、無理矢理に頼み込んで出てもらった。
「二度と出ません」と言いながら、それからもうちのワークショップに通い続け、ワークショップで出会った人と結婚して、結局またモグラ町に帰ってきた、ツンデレ人生。

ド素人丸出しに下手な芝居をする。だけど、誰より堂々と、そこにいる自分を受け入れて、冷静な客観性を持って観察しているようなところがある。
お芝居の本質なんてのは色々あるしそれぞれのスタイルでいいのだけれど、絶対に自分自身から離れられない、自分そのまんまでやるしかない、っていう私の考え方に、彼女の立ち方はぴったりで、そういう意味合いでは、龍さんと双璧の役者だ。
最初が聡子ちゃんで、ぐるり回って龍さんに辿り着く、ってのが、そういうタイプの成長過程かもしれない。
ともかく、どこにいっても変なポジションにしか立てない人であることには昔から変わりないんだけどね。

くるまさん


そういう人をすんなり受け入れてくれる、つまりそういう人の居場所がちゃんと用意されているってとこで、ちーちゃんと聡子ちゃんがいるだけで、稽古場も劇場も、いかにもモグラらしい空間に仕上がる。
町が出来上がる。


小林千里、ローザ桂木の「モグラ町1丁目7番地」、お席も残りわずか!


  1. 2010/10/15(金) 11:37:51|
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稲くんと真起子のこと。

稲くんとは、私が初めて流山児事務所のプロデュース公演に参加した20年前に会った。入ったばかりの流山児事務所の新人で本多劇場のロビーをうろうろしてた。怖い顔してるけど、ちょっとだけ言葉を交わした感じは優しくて穏やかで腰の低い人で、へええ、と思った。
稲くんは私よりもかなり年上だから今は「アサコ」と私を呼ぶけれど、あの頃は新人さんだし、私が客演だったから「アサコさん」と呼ばれていた。

それから私は流山児事務所の公演に何度か出たけど、稲くんと一緒にやった記憶がないし、もしやっていたのだとしても稲くんの芝居をまったく覚えていない。
でも、渋谷にあったシードホールというところで「主婦マリーがしたこと」をやるときには、稲くんに出てもらった。
顔が怖くて腰の低い人が必要だった。
相手役は、まだ舞台に立ち始めたばっかりの渡辺真起子で、稲くんは真起子に惚れ込んでしぶとく求婚し続ける役だった。

稲くん


真起子との出会いも流山児事務所の「ピカレスク・イアーゴ」だ。飲みの席で泣かしたこともあった。
今は、若い映画の人たちに「真起子さん」なんて呼ばれて、ちょっとかっこいいお姉さんみたいにしているけど、あの頃も今も真起子はへどもどびくびくして先輩たちの後ろにくっついて歩いてる冴えない奴で、それこそ稲くんの方がよほど堂々と居場所があったんじゃないだろうか。

稲くんは気配りの人だから、ベテランも素人も混じり合った「主婦マリ」の稽古場でもみんなとうまくやっていた。一方、真起子は恐がりで神経質だから、初日の本番30分前まで「あさちゃーん、怖くて出られないよーう」とかってぴゃーぴゃー泣いてた。

つまり、二人ともとんでもないヘボ役者だ。
技術も経験もないくせに芝居やりたくてしょうがないっていう。
そんで、お芝居の舞台では、そんな人がもの凄く素敵に見えたりする瞬間があるってのを、ちゃんと知ってて、その瞬間を信じてる人たちだ。

「モグラ町」でダメな感じの五人兄弟をイメージしたとき、稲くんの顔はすぐに浮かんだ。打ち合わせで名前を出すと龍さんも「ああ、稲な」と合点したようだった。稲くんの役は四男の文太で、文太は気遣いの人。
真起子に声をかけたのは、そういう役柄のことじゃなくて、真起子がお芝居やりたいのになかなかやれるチャンスがなくてウズウズしてたからで、「まあまあそう気張るなよ、龍さんみたいな人だっているんだよ」と、出会わせたくて、出てもらうことにした。

で、必然、この二人はまたそういう役所になって、区役所勤めの文太が同僚の由美子さんに求婚するというのが「モグラ町」、二人が結婚することになって挙式当日にあれこれあって「このお話はなかったことに」と由美子が逃げ出してしまうのが「モグラ町1丁目」だった。
だから、お話的には、今年の「モグラ町1丁目7番地」に由美子がいなくてもよかったんだけど。
人生、そう簡単に、筋書き通りに出会ったり別れたりはできないもんだし。

由美子は、一年経ってモグラの兄弟たちに再会することになった。
結局は、由美子もモグラな人ってことなんだろう。
真起子が二枚目モデルや演技派女優になり切れないのと同じに。

まきこ


二人とも、人生をうろうろしてる。
私はいつもそれを、どうしようもねえ奴らだな、と鼻で笑う。
でも、ふっと心が弱ったときに、ささっとそれを嗅ぎ付けていつの間にか黙って隣にいてくれるようなところがあって、まったく頼りにならないタイプとわかっているのに、うっかりあてにしてしまう。

でもやっぱり、稲くんをみてると「途中で辞める奴はこれだから」と思ったり、真起子には「ったく女優だかなんだか知らないけどさあ」と舌打ちしたりしてるんだけど、龍さんや塩野谷さんやよっちゃんや山ちゃんと比べれば、人生うろうろしてる感じが余計にリアル・モグラなところになってて、ああもう二人とも死ぬまで「へぼ」「へたれ」と言われながらむきになって芝居やってったらいいんじゃないの、とも思うのだ。

下手なもんはどうしようもない。けど「下手ですみません」と素直に恥じ入って、ちゃんと頑張ったり健気に気配りできる人は、何かを創るときの現場に絶対に必要だし、いて欲しい。
稲くんや真起子なら、十年後にも二十年後にも自信なんか一つも持たずに同じ気持ちでいられるんじゃないかと思う。


稲増文と渡辺真起子の「モグラ町1丁目7番地」、ご予約はお早めに。
  1. 2010/10/14(木) 13:34:10|
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山ちゃんとよっちゃんのこと。

吉田重幸さんはモグラキャストの中で一番の年長さんだがとてもダンディーで、皆からは敬愛を込めてよっちゃんと呼ばれている。
山本政保さんは、山ちゃん。
よっちゃんは私を「あさこ」と呼ぶけど、山ちゃんは「まえかわさん」と呼ぶ。

よっちゃんは誰よりも生真面目に芝居に取り組む。
元々は黒テントで制作をやっていた人で、お芝居に出るのは龍さんとこと、山ちゃんが主宰する果実の会だけらしい。
でも、こないだまで碧南市の市民劇団の先生を長年続けていて、去年の「モグラ町1丁目」はそのご縁で碧南市公演ができた。龍さんとこで何本も一緒にやってる山ちゃんなんかは碧南慣れしていたけど、私は初めてだったから、ホールが大きくてびっくりしたっけ。

私にとってはずっと「制作の吉田さん」だったから、龍さんのところで役者をやってるのを観たときもびっくりした。その頃はまだ山ちゃんは出てなかったと思う。
私が「真夜中のマクベス」に出たときが二人との初共演で、よっちゃんは「俺あさこと芝居やれるの嬉しくてさ」と、我が侭な私の芝居にも文句一つ言わずに楽しそうにやってくれていた。

お芝居の技術があるわけではないけれど、よっちゃんの佇まいはとても素敵で、それは吉田さんという人の魅力そのものなんだと思うから、難しい役や馴染まない台詞を喋らせるより、よっちゃんがよっちゃんのまんまに立てるお芝居があればいいのに、と思って、「真夜中~」をやりながら「モグラ町」を書いたから、モグラ町でのよっちゃんはとてもチャーミングな人になっていると思う。
役名も「よっちゃん」で、平井家の幼なじみという役所なのだけど、正直、吉田さんをモグラ以上にうまくキャスティングできる芝居はこれからもないだろうってくらい、気に入ってる。

よちゃん


それに引き換え山ちゃんは往生際が悪い。
山ちゃんだって変に二枚目っぽいことやるよりモグラ町で平井家の三男・勝也をやってる方がずっと山ちゃんらしさが出ていて素敵なのに、「あれは演技だから」と言い張る。
もちろん、共演者は誰一人そうとは思っていなくて、「あれこそが山ちゃんそのまんまだ」と思っているんだけど、どうやら山本さんは勝也という役の「変態」というキャラに抵抗があるらしい。
初めてモグラ町を観る人が最初に気に入るのは大概が「あの変態の人」なのに、贅沢な悪あがきだ。

山ちゃんは去年の「モグラ町1丁目」の頃に、長年勤めていた仕事を辞めた。
山ちゃんは高校の頃からお芝居大好き少年で、お芝居やりたいがために勤務時間がきっちりしている公務員になったんだと言っていた。
それを聞いたときには「へえええーえ、そんなにお芝居好きなのにこんなことやってんじゃダメじゃん」と思った。

だから、山ちゃんにやってもらう勝也という役は、山ちゃん生涯一番の当たり役になるよう、書いた。
ちゃんとそうなってるのに、本人はまだ二枚目路線でいくつもりらしくて、自分が主宰する劇団「果実の会」では下手な演出をしながらかっこいい山ちゃんを一生懸命にやってて、そういうところがどうしようもなく勝也なのになあ、と共演者一同が思っている。

どんな役柄でもこなせる役者が巧いのは当たり前のことだけど、そういう役者も自分そのまんまで舞台に立つことだけが苦手だったりすることもあって、私はいつも中身が透けないための「巧さ」なんていらないのになあと思っている。
山ちゃんもよっちゃんも、お芝居はちっとも巧くないけど、モグラ町の時間の中にすっと立って、そのまんまの自分で楽しんでくれているのが見えるから、私は山ちゃんもよっちゃんも「いい役者さんだなあ」と思う。

やまちゃん

本人がどれほど否定しようが、山ちゃんには勝也が、よっちゃんにはよっちゃんが、演劇人生最大の当たり役だ。
嘘だと思うならお客さんに訊いてみればいいじゃんね。


山本政保と吉田重幸の「モグラ町1丁目7番地」を観てください。
  1. 2010/10/12(火) 11:15:39|
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モグラ宣伝の合間に、一つ新しいお知らせ。

【映画一揆 井土紀州2010】の上映期間中、11/22(月)、井土監督と「犀の角」出演・吉岡のトークにお呼ばれします。

吉岡が私の前だと全然態度が違う、という井土監督の着眼から実現したこの企画、私はすぐにOKしたのに吉岡のスケジュール待ちで確定したこの企画、吉岡に「じゃあなんか企もうよ、吉岡がトークの最中にいきなり井土さんにキレるとか」って提案したら「そういうドッキリみたいなことしないくてもいい場だと思うんで」と冷笑されたこの企画、今日の飲み屋でも「今回吉岡と飲むの初めてなんじゃないの?」と言ったら龍昇が「アサコがいないときは吉岡飲んでくんだよ」、吉岡すかさず「そんなことないすよ!龍さん、今後の付き合いに差し障るんでそういうこと言わないでください」と泣きが入るこの企画、そもそも吉岡はどんな映画に出てもまったく私にそれを報告しないので勿論私も「犀の角」に出ていたことを知らないまま当日に初見させて貰ってのトークというこの企画、本番終わったら後は忘年会と思っていたのにモグラから二週間後にまた吉岡と顔を合わせるのもどうなんだというこの企画、私が吉岡を虐めれば井土さんがへどもどし、私が井土さんを虐めれば吉岡がへどもどするに違いないこの企画、メインは勿論「犀の角」の話なわけですが短い時間ながらも人間性と人間関係が露呈すること間違いなしですので、どうかお見逃しなく。

【映画一揆 井土紀州2010】http://spiritualmovies.lomo.jp/eigaikki.html

その前に、「モグラ町1丁目7番地」10/29(金)のアフタートークには、映画監督の池島ゆたか氏、漫画家のいしかわじゅん氏をゲストにお招きしてのモグラ・トーク。

どちらも十分にお酒を入れて暖まってから参入の覚悟。
心細いので、どうか冷やかしにきてください。
  1. 2010/10/12(火) 01:02:24|
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