仕事部屋

赤い月。

それぞれの日常で一緒に見上げた、二度目の満月が、今日は淋しくなかった。

風邪でぐずぐずと寝込んでいるくせに、じたばたする気持ちばかりが急いて、とうとう昨夜は衝動的に台本書いてしまった、冒頭だけ書き出そうとやってみたらするする進む、共同作業をお願いしている同志に読んでもらったらこのまま書いてしまえと言うのでそのまま書いた、まだ30枚で上演しても1時間くらいの分量だろう、どう増やすかは同志のパートなのでこれは準備稿として、これから弄り倒すのだ。

諸処の問題は山積みで解決策のないままだけど、中身に走るのは逃避の一種、昨夜の30枚は4時間作業だったから書く体力はまだあると確かめて安心したところもある、年内に長編小説やるつもりが放置続きで、しかも先日の打ち合わせでプロットの全面変更、つまり別の話にしようとなったところ、そちらのプロットもまだやっていないが、きっとこのまま書き出せば年内に初稿を上げるのも不可能じゃあない気がする。

芝居の企みで頭が膨らんで、自分の状況優先でついつい人の事情に気が疎か、優しくないなあと自覚することも度々なのに反省も底浅い、それでもちょっとは気が向いて馬鹿の一つ覚えのように様子を心配してみせたりはするのだが、あちらはあちらで余裕がなく、返されるときにはこちらが他のことに苛立っていたり、それでもそうと明確に状況を把握できているおかげで、やはり不安は欠片もない。

優しい言葉や甘い言葉には気が向かない、タイミングも掴めない、先の予定も立てられない、気ままに動く自由もない、そもそも関わり方の形がない、ないないづくしの状況にありながら、不安になったり焦れたりの負を抱えずにいられるのは何故だろうと自分でも不可解に思う、まったく連絡が取れないときだって、眠りにつく前にふと隅々までしっかりと満たされているような気持ちになったりする、何故だ、こんな状況で一体何に満たされてるんだと自問自答しながら、まあいっか、それも当たり前、なんて気にすらなる。

メール友達の妙齢女子が、背景は違えど似たように不自由な状況を抱えていて、彼女はひたすらに不安で、「彼にとって私って一体どんな存在なんだと思う?」を週に二度は繰り返す、つまり自分とその人が一体どんな関係であるのかを確かめたがって、「抱き合う時間があるんだからそういうことでいいんじゃない」などと曖昧な答で慰めようと試みても、これという安心できる答がその人から返されないうちはきっと何にも満足できないんだろう、他人の恋はいつだってそのように切ない。

彼にとって私は一体なんであるのか、その答を誰かに向ける感覚が今の私にはわかりづらい、いや勿論そう問い詰めたくなる気持ちはそれなりに想像できるのだけど、誰にとっても私は私じゃないのか、私にとってのその人がその人そのまんまでしかないのと同じに、誰にとっても私は私そのまんまで、何をどう求められようと与えられようと、それを変質させることは難しい、そう考えていることに共感があるかどうか、その一点の理解を信じられるから、私はそうしたことを考えずに済んでいるのだろうと思う。

声を聞いて確かめ合うことも、触れ合って暖め合うことも、約束を交わして見つめ合うこともないまま、ただ最初から変わらずにそのままそこにいることだけを信じていて、信じている自分を信じてもらえることや、信じているその人を信じられることなんてのは、よくよく考えたら奇跡というより思い込み型妄想の果ての狂気的なそれだから、さすがに時々は「私、狂ってないですよね?」と訊いてみたくなるけれど、そんなことを訊く前に、ちゃんとささやかな何かがあって、それはもう屈折した大人ならではの判りづらい愛情表現で、結局それを冷ややかなお愛想と思うか精一杯の愛情表現と思うかだけが、私が幸福でいられる分岐点だ。

いつか違う足下から見上げた満月が、今日は薄赤く染まっていた。
当たり前にそこにあるものが翳るのは恐ろしい。
だけど、暗転の空によくよく目をこらせば、うっすら息を潜めるそのものの実体が、ちゃんと見える。
欠けたわけじゃないんだ、失ってはいないんだと安心する。
そう確かめずとも、今日の月は地球の陰に隠れて欠けて見えるのだと知っていれば、怖がらずに済む。
月が、赤く見えることだってあるけれど、月はずっとそのまんまの月だ。



  1. 2011/12/11(日) 01:59:34|
  2. 雑感
  3. | trackback:0
  4. | comment:2
<<あたしだってぬくぬくしたい。

comment

月が欠けてきたときにはしゃいでいたら「どうしてそんなに楽しそうなの?」って彼氏に訊かれたよ。
いつもと同じ月なのに違う一面が見られた気がして、うれしかったんだよね。ひなちくは人間関係でもそうです。
でもやっぱり麻子さんの言うとおり、知っているからこそのものだと思うた。
思ったからひとしきり興奮した後に「もし本当に無くなっているのだとしたら怖いね」って話したよ。
  1. 2011/12/14(水) 00:39:28 |
  2. URL |
  3. ひなちく #-
  4. [ edit]

>ひなちくさん

全部を知るなんてことはできないし、そのときに見えてることは、そこから見えることだけ。
探らず試さず疑わず、どれほど傷ついてもただ愚直な恋をしてください。
  1. 2011/12/14(水) 03:33:32 |
  2. URL |
  3. まえかわ #-
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