仕事部屋

願う。

私には今、とても特別な想いで大事にしているものが二つあって、一つはあれで、もう一つはそれで、稽古帰りにだらだらと相手役と飲んでるうちどこかにあれを忘れてきて、行った店はよく知ってる店だけだったのでどこかで見つかるはずと高を括っていたけど一週間くらいは不安で身体が震えるほどで、次に同じ店を同じルートではしごしてあれが戻ってきたときにはただただ安心して自分の幸運に感謝した、それがつい最近なのに、今朝またそれを見失い、これは絶対に家の中にあると確信できていたのだけどいざ出かけようとした時に見当たらずベッドをずらしたりゴミ箱を漁ったりして探したのに、見つけられず、コヤ入りに間に合うぎりぎりの時間になってまさしく断腸の思いで家を出、コヤ入りしてからもよもやと思って鞄の中身を総ざらえして探したが見つからず、どんよりため息ばかりついて皆に受け流され、ゲネの後にはいよいよ不安がピークになったのでいつも握りしめているそれの替わりに本番の最初の場面だけあれを身につけて出たりしておためごかしをしてもみた、そういう不安は芝居をやる上で大変に都合がよろしいので芝居はそこそこ狙えたが、終って鏡前に戻るとどうにもならない不安がぶり返す、大雪を心配する言葉も初日おめでとうもなく立つ心細さもなくはないけれど、自分勝手に都合良く解釈するのが得意のはずが、御護り代わりのそれがないと何も通じないような気がしてしまう、それでも芝居が終れば客とは飲む、仲間とも飲む、演出家には予想以上に欲深い注文を出されて「はあはあ」などと頷いてみせる、相方と居残って、ああ今日はこの人に救われたなあなどとしみじみ思いながら電車で帰る、なんせ劇場とうちは一駅なのでそれ以上のことを考える時間もない、帰ってすぐに日報を入れる、ようやく初日おめでとうお疲れ様と返ってきて生きていける気がしたりもし、そうなると尚更に握りしめるそれがないことが不安になる、今朝ひっくり返したベッドに走って、というのも私はそれを毎晩しっかと握りしめて寝ているからで、起きたらそりゃどこかに見失っているんだが、大抵すぐに見つけられるのに今朝は見つけられず居間まで持ってきたのかも記憶が朧だったので、やはりまずはベッドから探す、そうしたら、あんなに探しても見つからなかったそれが、まるで誰かがそっと返しにきたように枕の下にあり、私はそれを両手で握りしめてちょっとだけ泣いたりし、そうして思ったのは、いつか夜道を一時間もかけて同じそれを探したその人が同じ思いだったのだろうかと、そんな簡単なことを私は見失っていたのかと、もしくはそんな出来事がただの幻のようなものだとしても、いつかはそうであったことを何故突き返さなければならないのかと、たかだかあれやそれやのことでいちいち不安になる自分が馬鹿らしく不憫で、この二週間、私は実際その人になかなか近寄れず、その人につながるあれとそれを立て続けに見失い、そうした出来事は私が勝手にその人を見失っただけのことで、その人がそこから消え失せたわけじゃないんだろうに、なのにまるで消え失せてしまったかのように怯える私はどれだけ身勝手にその人を見ていたのかと、そんなちっぽけなそれを握りしめるだけでこんなふうに繋がれるのであればそもそもの不安なんぞどれほどの意味があろうかと、どうせそもそもが身勝手な解釈の上にあるのだから、ゲネやりながら舞台裏でウィスキーらっぱ飲みしてる自分の太々しさと同じくらい、開き直ればいいじゃないかと今更に、掌に収まったそれ一つで飲み込めるくらいなら、それそのまんまだっていいんじゃないかなんてことを、まったく今更に、まるで芝居をやりながら感じ取るその時間のように判り易く、飲み込めて、ああ今日一日頑張ったなあとか、一緒にやってる人たちの加減のいい暖かさや冷たさのお陰だなあと、それを与えてもらえる自分の働きだって決して侮ったもんじゃないなあと、私は私の神様に、私だけの神様に、心底から感謝してまた願う、明日が今日とつながっていますように、今日の先に明日がありますようにと、心底から感謝してまた願う、心底から感謝してまた願うのだ。


ALPHA、雪の中たくさんのお客様にご来場を戴き、無事に初日が開きました。
明日も劇場でお待ちしております。




  1. 2012/03/01(木) 02:27:31|
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