Wと知り合ったのは出会い系のサイトで、メールのやり取りをしばらくして、一度デートして、Wは気に入ってくれたんだけどタッチの差で私は他の男の子と付き合い始めて、Wとは何も始まらなくて、付き合ってた男の子とあっさり終わってしまった頃に、またWと逢うようになって、ほんの少しの間だったけど、一緒に過ごしていた。
飲みに行ったり、飲みに行ってるときに迎えに来てもらったり、幼なじみの仲間にも紹介したし、読んだ本の話をしたり、散歩したり、日曜の朝に私が目覚めたらWと娘がいなくて慌てて探したら近所で2人でご飯食べてたりして。
本名も、勤め先も、住所も知らないままだったけど、これまで付き合ったどんな男の子よりも私を安心させるのが上手だった。
何をしてくれることよりも「安心させてくれる」ってことが何より大事にされている気がするもんなんだと、その時に知った。
飲んでいて、見知らぬ男の子に声をかけられてWと一緒にお喋りしていたら、その見知らぬ男の子が「カレシさんなんですか。俺、この人口説いてもいいですか」なんて酔狂を言い始めて、それでもWは鷹揚に「いいよ。俺も口説いてるのになかなか落ちてくれないから」なんて言っていて、私はすっかりWのものだと思っていたのに、ずいぶんじゃないかと思ったりもしたけれど。
ちょうど、つい数日前にWのことを思い出していた。
なんで思い出したのかと言うと、その人がWみたいなことを言ったからで。
飲んでいて、見知らぬオジサンに声をかけられてその人と一緒にお喋りしていたら、オジサンが「ダンナなのか」なんて浮ついたことを言い出して、私たちは「ダンナです、ダンナです」とふざけて言っていて、「将を射らばまず馬って言うでしょ」なんてその人も調子に乗っていて、でもオジサンが話のノリでほんのちょっと私の肩を叩くようなことをしたら、「触らないでください」って怒ってみせたりもして、そういう出来事で、Wを思い出した。
似てるところがあるかもな、と思ったり。
いや全然違うな、と思ったり。
ただ、似た場面に出会して、するっとWの残像が重なったんだと思う。
Wは私にたくさんの言葉をくれた。
Wが思うことは、するすると言葉になって、歌みたいに届いてた。
Wの言葉には独特のリズムがあって、それがすごく心地よかった。
Wが私を好きだと言ったのは1度かせいぜい2度あったかどうか。
でも、いつもそれがちゃんと伝わっていて、不安になったことはない。
何をしている人なんだろうとか、騙されているんじゃないかとか、本当は別の恋人がいるんじゃないかとか、そういうことを想像して怖がったこともない。
年は、五つか六つか、私より年下だったと思うけど、身体もココロも大きな人だったから、私はすっかり甘える側にいた。
本当にWのことが大好きだったのだけど、安心させてくれるぬくぬくした気分にうっとりしていて、Wのことをちゃんとみていなかったんだと思う。
いつか俺だけのアサコになってくれると思ってたんだけど、と言って、Wはいなくなってしまった。
それから私はまた他の男の子を好きになったりして、でもWに逢いたくて、連絡したりもしたのだけど、「逢わない方がいい」って言われて、その通りだと思って、我慢した。
結婚したよって報告をしたときには、Wも「俺も結婚したんだ」って言ってて、良かったなあ、きっと可愛いお嫁さんを見つけたんだろうなあと思って、それきり連絡はしなかった。
未練とか、そういう生々しいものじゃないんだと思う。
ただ、好きなまんま離れた人だから、ずっと好きなまんまで。
嫌いなところを見てしまうほど長い時間じゃなかったからかもしれないけど。
やっぱり、きっといつ会っても、私はWのことが大好きだと思う。
だから、とてもとても逢いたい。
でも、もし逢ってしまったら、あの頃と同じように愛して欲しくて、安心させて欲しくて、じたばたするだろう。
私はまた、あの頃と同じにうっとりするばっかりでWを真っ直ぐに見ないまま、欲しがるだけ欲しがるんだろう。
Wがくれた安心毛布の大きさを、私はようやく覚えた。
Wを思い出させたその人をそうやって包めたらと思う。
もし、その人が、うっとりするばかりで私を真っ直ぐに見てくれないのだとしても、私はあの時のWみたいにしびれを切らせたりはしない。
だって私はあの時だってWを愛することを諦めてなんかいなかったから。
ちょっと待って、もうちょっと待って、もうすぐだからって、あの時の私みたいに、もしその人が思っていたら。
私がいなくなってしまうのは、あの頃のWがいなくなってしまったときの私みたいに、とても悲しいと思うから、私はまだもう少しここにいる。
それさ、最強でしょ? 最強じゃない?
それが、Wに教わったロケットパンチ。
恋する女友達、ロケットパンチでぶんぶんいこうぜ。
- 2012/05/21(月) 20:41:31|
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