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仕事部屋

足の踏み場がないわけじゃない。

バレンタインデーに張り切って愛想を振りまいていたのは二十代までだったか、愛の告白なんぞはいつでもできる性質だから、むしろ日頃お世話になっている目上の方々に何かしらの形で感謝を伝えられるのは有り難い機会だった、この年齢になってそういうことをすっかりサボっている自分に気づき唖然、支えてくれている友人たちにすら感謝を伝え切れていないのに、特別な人にだけこそこそ連絡してたりの不純に反省して愛の日が終わった、イベントへの感度が鈍るのは日常に余裕のない証拠、寒さに俯いて歩くばかりで空も見上げていない。

黙々バイトのはずが悪天候と悪体調でなかなか思うようにいかない、久々に連勤したら二日目は帰路で倒れ込みそうになるほどの疲労、大して忙しい現場でもなくたった二日ばかりの連勤でこのざま、家にいたらいたで次々と雑務が湧いてくる、今年はまだ何も活動してないのに、まあこういう類いのことは活動前の準備がバタバタ忙しく動き始めるとそれだけになって楽になるのが常なのだけど。

2011年の6月に思いついた長篇を、ぐずぐずと先延ばしで書き始めて10稿ほどの改訂でようやく輪郭になった、これまでは思いついてから書き出すまでは長くとも書き出したら10日で400枚くらいの勢いでやっていたから、昨年7月に書き始めて短めに仕上げてからねちねちと削ったり増やしたり、これほど長い時間をかけていると、書き始めた時と直してる時とで見てるものが違っていたりもして、おかしな方へ膨らんだりするから面白い、ネタを思いついた時にはまったく浮かばなかったものが今は主題になって、まるで自分の書いたものとは思えないような案配に少しずつ自立していく早書きには味わえない楽しみを知って、いっそのこと一生際限なく直し続けたくなる。

まあ、そんなもんだわな、芝居の稽古だって小説の推敲だって、満足というゴールがない、あるのは〆切だけ、稽古し続けるばかりで一度も板に乗せない芝居とか、推敲し続けるばかりで一度も出版しない小説とか、憧れる気持ちはあるんだけれど、きっとそれやり始めたら本格的に狂っていくんだろう、半年程度の公開稽古でもあれほど苦しかったんだから、やはりこれらは排泄なんだなあと改めて思う。

WSの新案について相談したら「一本の芝居を作る以外に手段がわからない」と言っていた、なるほどその通りだと思う、芝居を教えることはできないと思うから、一本の芝居を作るワークショップはやりたくないのだと自分の方向に目が届く、稽古場はできないことができるようになるための時間じゃない、できることを持ち寄るのが稽古場だと思う、だからできないことができるようになるための時間としてのワークショップをやっていきたいのだと、いよいよのあれこれが決まって、新しい志が小さく根付いた。

小説だって書けないことが書けるようになるために書く訳じゃないもんな、それは勉強や習作を重ねるしかない、芝居のようにみんなでああだこうだはやれないから一人黙々とやるしかない、小説講座もそういう役割でのワークショップとして機能させたいと常々考えてはいるのだけれど、本気でデビューを狙う人もいれば趣味教養の人もいる、ワークショップでも講座でもお金を貰っている場だから参加している人にはそれなりのサービスがしたい、などなどを考えているくせに、できることは結局、個人に対面するという姿勢だけなのだとまた思い知る。

書いている最中の小説の勉強にじっくり田中英光親子を読み、ワークショップの参考には「人生、ここにあり!」という映画を観て、ぎゅぎゅっと刺激される自分の奥底の何か、それが何かを探り当てるために悶々と思考して、そこに見つけたものを人に伝えるために右往左往する、そういうことを繰り返している、いつだって。

つまりあれだ、意思表示なんかじゃなくて、反応から何かを確かめるだけのことで、約束したいんじゃなくて、約束してもいいくらいの気持ちのところを掴みたいんで、それは全部が今日たった今のことで、明日やその先もずっとそうだとははなから思ってやしないわけで、だからこそいちいちに今日を確かめてしまうのだと、なんだか全部が大丈夫な気がしている今はそうとわかるのだけれど。

こないだは久々に記憶を飛ばした、それほど飲んだっけ、飲んだよなあという程度の思い出に何か大事なことがあったのかもしれない、ちょっと前まではその喪失感に狼狽えたけれど、今はもう慣れてしまった、そこにあったことを見失ったとして、あれば次にもまた見えるし、なければ次こそないとわかる、それだけのことじゃないかと開き直れる、失うことを怖がるのはいつだって「あるつもり」のせいだ。

足踏みの年齢なのかな、とも思う。
先へ先へと進むばかりじゃなく、今ここにいながらにしての。


ひつじ


  1. 2013/02/17(日) 07:22:34|
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