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仕事部屋

いつかのサクラが今咲いた。

今朝、twitterでフォローしている某出版社の某元担当編集氏から「朝日新聞東京面に出てました」とダイレクトメッセージをもらって、何事かと添付してくれた画像をみると『パレット』の紹介記事、ずいぶん昔に出した本なのでどうして今頃と思ったら記事は「東京物語散歩」というコラムで、西郷山公園の紹介であった。

パレットを書いたのは、娘がちょうど中学に入った頃だったか、池袋の方から恵比寿に越してきて、やっぱり生まれ育った街は馴染みがいいなあと感じていたそのまんまに、渋谷で育った中学生の物語になった、小説宝石での初めての連作短編だった、私自身はあまり学校に馴染まなかったのもあって、『パレット』にも学校の場面は多くない。

それでも、中学生当時に渋谷で遊び倒したあの感覚を思い起こすうち、当時の自分が考えていたことや感じたことが鮮明に呼び覚まされた、当時手帳を持つのか流行で、私はその頃から毎年の手帳をすべて残している、見れば今より余程忙しい、これじゃあ学校に行く暇なんかないだろうとも納得する。

手帳を開いて子供じみたローマ字づかいや今となっては意味不明の記号を眺め、フラッシュバックで14歳の自分と向き合って、横目で観察する娘の日常を重ね合わせて、あの頃の私が今の渋谷に育っていたらと考えるのは楽しい作業だった。

折しも、昨年から取り組んで書いても書いてもOKが出ない原稿にようやく今年になって再挑戦し始めていた、書くべき物語は出来上がっていて切り口が見つからない、ディティールであるエピソードであるとACCの小説講座で煩く言っているのに、自分が書くときにはそこに足を掬われ四苦八苦の真っ最中、週末の朗読公演の前に送っておきたくて夜勤明けで帰ってそのまま作業を始めたところに届いた「東京物語散歩」記事であった。

すごいなあと思った、記事中に2005年と書かれていたのでもう10年も前に書いた作品、それが今になってこんなふうにひらっと私の日常に、見知らぬどなたかの目を通して、鮮やかな景色のように伝えられていく、演劇のような消えモノに慣れてしまっていると、モノを作るということの役割の大きさをうっかり忘れる。

20の時の裸映画が上映されるたびそのことを思い出したし、ふとした機会で読者に出会うときにも、ああそうだったと思い出すのだが、twitterで教えてくれた元編集氏はそもそも『パレット』には関係のない他社にいた人で、あの頃は仕事をしている各社の編集氏と毎週のように飲みに出ていたなあなんてことも思い出した。

ここ久しくすっかり小説を手放していつか書こうというメモばかりを溜め込んでいた、本を出したいと思っていても自分の成績は思うほどよろしくないとも承知しているのでもはや欲もない、食べるために書き始めた小説で食べられなくなって5年か6年か、食べるための仕事を新しく見付けて楽しめることに安堵してもいる。

だけどやっぱり書きたいと、食べられなくとも書く人でいたいと、支えてくれたたくさんの編集氏の顔を浮かべながら、ついつい忘れてしまう「形になって遺るもの」を産み出せる力を、もっとまっとうしなければと、ひーひーやってる原稿作業の最中に思い至れたことが、なんだか神様的な感覚でいうお告げかお導きのようで、ははあ人生というのはこんなふうに組みたっていくのだなあと、いつもに増して感じ入った。

あんまり嬉しかったから『パレット』担当氏やtwitterは勿論Facebookにも自慢投稿をし、俄然やる気になって原稿作業を終えたところに、コラムを書かれたご本人がメールを下さって、こちらもお礼を伝えることができた、コラムの筆者は学校の先生であられ2日後には入学試験があるそうだ。

人生を思いがけない造形に組み上げていくのは人との出会いばかりではない、本を読むことでも映画を観ることでも、もしかしたら道ばたの小石を拾うことでも良いのかもしれない、自分の手を伸ばして触れることから始まっていくのだと、たくさんの子どもたちがきっと教わるだろう。


東京物語散歩_20150204


恵比寿を離れてからもうずいぶん西郷山公園には行っていないけど、もう少し暖かくなったら桜の花見より先に河津桜を見に行こう、あの河津桜はあんまりにも早々咲くので、早咲きじゃなくて去年の分の遅咲きなんじゃないかと、実は密かに思っている。






  1. 2015/02/04(水) 19:09:58|
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