孫も生まれて、もうこれからはひたすら穏やかに生きていくのだろうと信じていたが、やはりそうはいかなくなった。
11月に娘から半泣きで連絡が入り、勤め先の弁護士に知恵を借りながら辿々しく交渉を重ね、結果、1月の雪の日に新編成の家族と新居に暮らし始めた。
そもそも新宿の住まいはちょうど2年の更新期で、数千円の家賃値上がりに渋々同意して更新しようという数日前に、
そうした出来事が持ち上がった。乳飲み子を抱えた娘は離婚されても出戻る家がない。こちらもよもやそんなことになるとは思ってもみなかったので心配したことすらなかった。
亭主は娘と孫との同居を快諾してくれ、私は仕事の合間にインターネットで住処を探し始めた。
衣類と書類で2DKいっぱいの夫婦に犬、それなりの暮らしをしていただろう娘、これから成長していく子どももいる。
3DKでなんとかなるものだろうか、自転車通勤できる職場をまた探さなければならないのかと迷って、まず、今の職場で社員にしてもらうことに決めた。
亭主は現場仕事であちこち行くが大荷物なのであんまりにも混雑する電車は辛かろう、赤ん坊を連れて買い物をするのに近くで済ませられないのはしんどかろう、駅までの距離が遠いと私は働きに出なくなるだろう、などの条件をもとに様々な情報と選択の中、早速数件の内覧を予約して足を運んだ。一長一短の物件探しの中、ジモティーという地元情報の無料掲示板サイトに掲載された賃貸物件情報の一つに面白いものを見つけて早速問い合わせた。
十条銀座徒歩4分の古い一軒家でペット可という情報を載せていたのは、独居老人が施設などに入る際に空き家となる物件を無料でリフォームして貸し出し、賃料をホームの費用に充てられるよう手配するというようなNPO活動をしていた人で、新しく事業を立ち上げたのだという。問い合わせた日にちょうど現地に行くからと翌日には室内の写真を数点送ってくれ、どうしても見たくなった。


ほぼこの物件で決まり、という都営新宿線沿いの一室を見たあとだったか、電話で話して鍵の隠し場所を教えてもらい、十条の家を勝手に見させてもらった。
まだリフォーム途中で、大工さんの道具はあちこちに置かれているし、床は抜けているし、壁の穴を塞いだ跡も生々しく、線路に近いその家は電車が走るとがたぴし揺れていた。
8年ほど空き家だったらしい。古くて小さな二階家だが造り付けの棚がそこここにあったり室内がガラス窓のついた扉で仕切られていたり、昭和の懐かしい風情がある家だった。ふうーん、へえーと室内を検分した後、商店街で惣菜を買って帰る途中から、もう、そこに決めた。
契約時の条件は、家主の身内を探しているという看板を家の外に張り出しておくこと、だった。
ジモティーに記事を出していたその人が大家さんということになるのだが、もともとの家の持ち主の事情があるらしい。
ベニヤとトタンの壁に材を入れてもらったり、襖で仕切られていた2室を壁にしてもらったり、お湯のでない洗面台にお湯の配管を回してもらったり、入居前に入らせてもらって天井にペンキを塗ったり、細々と要望を伝え、管理側の予算や入居希望日と工事の進捗の折り合いをつけるやりとりを毎日重ね、礼金2ヶ月とペット飼育で敷金1ヶ月プラス後から頼んだ工事の、予算をはみ出した分の材料実費を支払って契約をした。多分儲けにはならなかっただろうが、いつか小説を書くときに指導しますという約束をしている。落ち着いたら飲みましょうという約束もしているのだが、まだ果たせていない。
あらゆることにトラブルが発生していたので越してから1週間ほどかかったが、約束通り、成田くんに看板をデザインしてもらって張り出した。
流行りの、空き家対策物件ということになる。間取りを大きくいじるわけではないのだけど、ちょっとしたリフォームで暮らしやすくする感じ。不動産屋や保証会社を通さない契約に信頼が置けないという向きもあるだろうが、、一般的な不動産契約よりちょっと突っ込んだやりとりができて、個別の事情を理解してもらえることがありがたかった。DIYフリーなので釘も打ち放題だしペンキも塗り放題で現状復帰の義務なし。いくつか他の物件も手がけているというので、DIYフリーで住める家を探している方は問い合わせてみてください。
空き家管理再生 みやらび以前に美術家の井上さんが作ってくれた本棚の解体やトランクルームからの荷物の運び出しに成田くんが、トラックや自家用車での運搬にはコウスケが、新居の玄関鍵の取り付けにヤングチームから鍵屋に就職した平田くんが、引越し直後の雪の日に台所のものを片付ける手伝いをしに成田くん嫁のユカコが、台所のキッチンパネルの施工には四代目夫のムーさんが、それぞれ絶大なる力を貸してくれた。普段からあれこれ助けてもらっているが、雪の日に大変な思いをしてもらったことは感謝してもし尽くせない。
何より、亭主の実家の暖かな後方支援がなければ、私も娘も立ち往生のまま絶望していただろう。
再編成を決めた今年の正月に、娘と孫と私たち夫婦は亭主の実家に出向いた。
義両親はひ孫ができたと喜んでくれ、義妹の息子はもう使わないからとベビーカーを譲ってもらい大喜びの娘も、帰りがけにぽつり「なんだかほっとした」と言っていた。
勤め人になった最初の出勤日は寝坊して遅刻した。もはや自転車で5分の距離ではない。芝居や映画を観るための時間がままならない。今まで以上に不義理することになりますと挨拶をしているが、新居でネット回線が開通して最初に、木村文洋からの案内を受け取った。


新作「息衝く」公開にあわせて「へばの」「愛のゆくえ(仮)」が、
ポレポレ東中野でレイト上映される。
プロデューサー自主企画での上映会を重ねていたが、久々にあのスクリーンで観られるのが嬉しい。
連日21:00より 料金1,300円均一 ※リピーター割引実施!半券提示で1,000円
2月17日(土) 『へばの』※監督舞台挨拶
2月18(日) 『愛のゆくえ(仮)』※監督舞台挨拶
2月19(月) 『なしくずしの志』※監督舞台挨拶
2月20(火)『へばの』※20~22日上映後、監督舞台挨拶予定
2月21(水)『愛のゆくえ(仮)』2月22(木)『へばの』
2月23(金)『愛のゆくえ(仮)』
監督は多分、毎日いる。
いろんな人のいろんな事情を紡いだ家に、表札も門灯も新しく取り付けて、亭主はちょっと嬉しそうだった。10年で更新なのだが、私たちはもうここが終の住処と思っている。
3年前に読んだ星占いで、2017年から2018年にかけての獅子座は居場所を作る大きな転機、引越しや転勤がある、と書かれていた。今更に引越しも転機もないだろうと思っていたから思い出してぎょっとした。
そういえば、私も亭主も娘も、みな獅子座なのだった。
- 2018/02/06(火) 08:26:15|
- 雑感
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| comment:4
なんだかとても素敵な居心地のいいご自宅を見つけられたようで、おめでとうございます。
大家さんのお身内の方、見つかるといいですね。戸籍の付票などは取り寄せてみたのでしょうか?
- 2018/02/07(水) 15:46:34 |
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- とわ #-
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ありがとうございます。
看板の件、海外に住んでいる親族の方の連絡先を紛失されたそうで、東京オリンピック前後で来日され家に来てくれるかもしれないので、ということでした。
ちょっとドキドキしますね。
- 2018/02/08(木) 00:47:11 |
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- まえかわ #-
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ご無沙汰しています。さとうです。新居がお決まりになって、生活スタイルも出来て良かったです。時間の不自由さはあってもきっと何とかなります!新しい生活を不自由さも含めてどうか楽しんで下さい🎵
- 2018/02/09(金) 23:08:56 |
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- さとうのりこ #-
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ありがとうございます。先日やっと最後の段ボールが片付いたばかりですが、家の中は落ち着きつつあります。通勤に意外なほど体力を奪われていて事務処理能力が落ちている感じがしていますw
- 2018/02/11(日) 11:57:13 |
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- まえかわ #-
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