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仕事部屋

コインランドリー。

昼過ぎ、雨も治まっていたので駅前まで買い物に出た。帰りはちょっと降り出して、うつむいて足早に歩いてた。すると、私の後ろから来た見知らぬ女性が、小走りになって私に追いつき、声をかけてきた。振り向くと、「そこの銀行まで」と、恥ずかしそうに笑った。私より少し年上だろう、ご近所風の女性。私は、彼女が差し出してくれた傘に遠慮なく入れてもらいながら、ほんの数百メートル、彼女と歩いた。

これまでの人生で、見知らぬ他人が傘を差し掛けてくれたのは三度目。

一度目は、中学生のころ。駅から家に向かう途中、後ろから来た女の子が、「同じ方向なので」と背後から傘を差し出してくれ、小さな傘に入って並んで歩いた。その子は、私と同じ中学の一年後輩で、私は知らなかったけれど、彼女は、近所だと知っていたそうで、それからは学校でも顔を見つければ話をするようになり、その後、彼女とは交換日記をしたんだった。

二度目は、まだ私が十六くらいの頃で、家に帰る途中で雨に降られて濡れて歩いているとき、通りすがりのサラリーマンが、私を追いかけてきて、「友達が持ってるんで」と、自分の傘をくれた。

三度目が、今日。私はもう雨に濡れていても可哀想だったり可愛かったりする年頃ではないのだけれど、それでも、誰かがそうやって目に留めて、声をかけてくれる。
とても幸せな気持ちになった。

それから私は、夕方に犬を連れて近所のコインランドリーへ行った。コインランドリーには、五十代らしきむすっとした女性と、カートを杖代わりにしてやってきた老婦人。私たちは皆押し黙って洗濯機や乾燥機の前にいた。すると、突然の停電。 ちょうど私が使っていた古い温水洗濯機が脱水を始めたときだ。私たちは、わいのわいのと言って、天井近くの隅っこにあるブレーカーを見つけ出し、私が椅子と洗濯機の上に乗って、ブレーカーを上げた。
中年女性はぶつくさ言いながら引き上げ、私と老婦人は、その後あれこれとお喋りをした。そこに、時々見かける二十代らしき青年がやってきて、自分の使っていた洗濯機の前で首を傾げている。きっと、電源が止まったから、タイマーがおかしくなっているのだろう。青年は、そこに留まって、一人文庫本を開いていた。が、私の犬が彼の足下に行ったのをきっかけに、彼もまたお喋りに加わった。およそ三十分、私たちは、老婦人が昔飼っていた犬についてのお喋りをした。
ランドリーが混雑してきて、老婦人が先に引き上げた。私は表でタバコを吸っていて、挨拶をし損ねたけれど、彼女の後ろ姿を見送った。それから、私が犬を膝に乗せて乾燥機が止まるのを待っている間に、青年が引き上げた。他の利用者が親しげにお喋りをしていたせいか、背の高い彼は、黙ってランドリーを出てから、窓からひょいとあたしを見て、会釈をして行った。

laundry_midori.jpg


今日一日にあった、この三つの出来事から(うち一つは記憶だけれど)、「コインランドリー」という小説を書こうと思いつき、さっき担当者にメールをしたところ。
  1. 2007/07/23(月) 17:26:35|
  2. 雑感
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