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仕事部屋

歌を、うたおうと思う。

小学生の頃、仲良くしてもらっていた高校生の兄さんたちが、夏休みになるとギターを弾いて歌をうたっていたので、そういうのはきっと高校生くらいになったらできるんだと思っていたのだけど、四十になろうという今も、ギターは弾けない。中学生の頃、バンドをやってる先輩を好きになって、練習を見せてもらったり、一緒にライブに行ったりもしたけど、やっぱり自分では何もできなかった。
小さい頃にやっていたピアノが嫌いになって、エレクトーンをやってみたけどすぐに飽きて、音に惹かれてハモンドオルガンに転向しても、やっぱり続けられなかった。エレキベースを買ったりフォークギターを買ったりもしたのに、やっぱりどうも楽器を弾くセンスはない。

劇団を作ったついでに歌わせてもらったことがあったけど、下手なだけで見せられるもののない無惨なステージだったに違いない。同じことを、キャラメルでもやった。それでも諦められずに、バンマスだった星野DJを付き合わせて、芝居のついでのように歌ってもみたけれど、なんだかもう自分で嫌になっちゃって、もうしばらくやめとこう、と決めたんだった。
いつか「あたしはどうして歌えないんだろう?」って、スイマーズのワクちゃんに相談したら、「マエカワさんには他の表現方法があるからだよ。歌でなきゃ表現できないってことがないからだよ」と言われて納得もしたし。そういえば、去年の誕生日に買ってもらったカホーンも、仕事場ではちょうどいい踏み台になっている。

つまり、あたしは音楽がやれないまま、大人になってしまった。

歌いたい歌に出逢ったときには、いつか、いつか、と思いながら、そのいつかをずっと先延ばしにしてるなあと気づいたとき、四十になったら歌おうと自分勝手に約束をして、あたしは来月、四十になる。

この数年、気に入ったライブハウスで、いくつものステージを観て、あたしがやろうとしていたことには、なんの準備も勉強もなかったんだと判ったし、それなら、準備と勉強をすれば、あたしにもできるやり方があるんんじゃないかと、四十に向けて、その実、企んでいたのだ。

ただ、出逢わなかった。
あたしの心の相方である星野DJのようなパートナーに、出逢わなかった。
芝居をやるときも、遊びで歌をやるときも、ただ言葉を投げるときにも、ここ数年、人前に立つときはいつも星野DJがあたしのそばにいてくれて、その存在にどれほど助けられていたのか自覚しているから、星野さん抜きで何かをやるのは、ずっと怖かった。
芝居の客演をしたり、芝居の連中と離れてライブハウスに出入りしたりするうち、何かやれるような気持ちにはなっても、タケは就職しちゃったし、星野さんはいないしで、手も足も出ないような気がして、ずっと臆病になっていた。

もう人前で何かをやる時間を作れないような。

康造とかドリフとか、自分が何かをやるよりも、彼らの時間を作る方が、自分にとっても余程有益だと思ったし、辰朗とか洋平とか、彼らの時間を観ることの方が、結局は安全で心地いいような気がして、それなりに楽しんできたのだけど。

昨年末に、でろでろに酔っ払いながらも、できることを思いついた。
思いついたことを醒めた頭で慎重に考えて、何度も自分の気持ちを確かめて、それから、声をかけた。彼らに出逢わなかったら、あたしはずっと自分の約束を先延ばしにしていたと思う。

今更、音楽をやる人になろうとは思わない。なれないものだろうと開き直っている。
ただ、音楽は誰もが持っているはずで、あたしにはあたしの音楽がちゃんとそれなりにあるはずで、自分さえストイックになれば、きっと歌でなければできないことにも辿り着くんじゃなかろうか。今はまだ道のりだけれど。

本番まで、まだ一ヶ月近くある。
課題は山積みだし、どこまで進んでいけるのか、まったく見当がつかない。
ライブハウスを時間で借りるんじゃなく、ちゃんとブッキングしてもらって、対バンと一緒にやる。それはもう十分な課題なわけで。楽器が弾ける友達を誘うんじゃなく、今までステージを楽しませてくれていた人たちと、友達になることから始めたようなもので。星野さんがいなくても大丈夫って思えるだけの信頼を自分の内側に築くことからやってきて。

例えば、星野さんがやっているそれは、もう星野さんだけのもので、他の誰かが懸命に真似ていても、あたしには星野さんじゃないってことが判る。親方の音は、十年以上好きで聴いているから、どこかから不意に何かの音源が聴こえてきて、そのベースが親方だったときに、「あら?これはムーの音では?」と判ったりする。
それは多分、星野さんの音の出し方や、親方の出す音が、そもそもあたしの中にある何かと限りなく近いからなのかもしれない。

そういう音と、ようやく出逢ったような気がして、カナリアでギターを弾いているヒロシに声をかけた。それから、カナリアのパーカッションをやっているクボちゃん。
二人とも、モジョムラッカというバンドの頃からたまに観ていたのだけど、こういうのはタイミングなんだろうと思う。正直、音以上に、あたしには彼らの存在感が重要で。星野さんがそばにいてくれたように、そのとき彼らにそこにいて欲しいと思ったから、お願いしたのだけど。音楽家の存在感は、つまり、音と姿がセットになって伝わるもんなんだと思う。あたしは、ステージの彼らがとても好きだ。小さなお猿のように楽しそうに叩いているクボちゃんや、いつも気負いなく当たり前のようにそこにいて、しっかり目配りしているヒロシが、あたしが歌うときにいてくれたら、あたしにも何かできるんじゃないかと思った。

こないだカナリアのライブを観ていて、ヒロシのギターの音が聴こえたとき、ちゃんとヒロシの音だとわかった。それくらいの練習はしている。そして、練習以上に飲んでるから、もはや星野さん以上の何かが出来上がっているに違いない。

スタジオで練習する一ヶ月くらい前から、いつか芝居をやったときの歌声が鮮烈でずっと勝手に彼女のように歌いたいと思っていた、元パノラマ歓喜団の女優・県多に、しばらく個人レッスンをしてもらった。彼女の家は近所なので、歩いて往復する道すがらにずっと歌いながら歩いていて、ええかっこしいの自分にもそういうことができるんだと知った。
最初から親方に相談すれば色々なことがスムースに進んだかもしれないが、彼を頼らずにやって、ちゃんと評価してもらいたいと思ったから、最初はライブをやることも内緒にしていたのだけど、口がむずむずしてすぐにバラしてしまったんだった。大笑いされたけど、練習用のカラオケ音源は、親方が作ってくれた。まったく恐れ多いったらない。

あたしは、今になって、人前に立つことのそれを、もう一度、基本からやり直している。
自分が楽しめるだけの、練習と勉強。人に見てもらえるだけの何か。観てくれる誰か。そのとき一緒にいてくれる誰か。覚悟、衝動、羞恥心。言葉にする必要のない、いろいろなこと。
今までずっとやってきて、誰にも負けない自信のある、そういう部分なのに、「歌をうたう」という課題になった途端、また全部を最初から辿ることになった。

芝居で歌うのとは、まったく訳が違う。だって、見せるものがそれしかないんだから、決して簡単なことじゃない。音楽をやる人には呆れるほどどうでもいいようなことに、いちいちつまずきながら、一歩一歩確かめて進むから、とても時間がかかっている。

最初は、自分の歌声が聞こえるのが恥ずかしくて、マイクを使って歌えなかった。実は今も、ビール三本空けてからでないと、のびのび声が出せない。ひとまず四本目になるともうちゃんと歌えないという限界ラインは判った。
それと、練習スタジオでマイクをつなぐのが毎度当てずっぽうなので、初めて入るところでは色んなスイッチと格闘する。音が出ればいいから、いつまでたっても手順を覚えない。
でも、自分の声には段々に馴れてきた。どういう声が好きか嫌いか、自分でははっきりしているのだけど、その調整が難しく、家でひたすらに歌うことで、自分に聴こえる声と、人に聴こえている声の違いが知れてきて、どうやらこんな感じ、という声になってきたんじゃないかと思う。不思議なことに、歌詞を覚えるのが苦手だと思っていたが、今回の選曲ではどれもすんなり歌詞を覚えた。もちろん、それだけ繰り返し練習しているからでもあるけれど、もしかしたら、今回はやろうとしていることが自分の中ではっきり定まっているからなのかもしれない。
あたしは歌を作る力はないけれど、人の言葉を自分の言葉のように口にするのは得意だ。
洋平の歌や、辰朗の歌を、あたしの歌のような顔して、うたってやれと思う。
歌を、うたう。それだけのことがやりたい。

何より、音楽を知らないあたしに散々に駄目出しされていちいち凹まされてきた誰かさんたちに、今度はあたしの歌を聴かせて、立ち姿を見せて、散々に駄目出ししてあたしを凹ませるチャンスを与えてあげられるじゃないか。
駄目出し、してみやがれ。

いつかやろうと思っていること、誰にでもたくさんあるんだろうけれど。
そのいつかを、あたしはちゃんと迎えたいし、迎えられるんだから、四十ってかっこいい年だなあ、と思う。あたしは、四十になることが、ちょっと自慢だ。これまでできなかったことを、もう一度やってみる気になれるんだから、かっこいい。

四十になったら歌おうと決めていたので、四十になってから、うたいます。
夏休みのご予定に、ぜひ、冷やかしの一晩を。

8/23 thu @SHIBUYA WastedTime

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  1. 2007/07/25(水) 20:23:11|
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