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仕事部屋

あなたが地球最後の読者なら。

ぎりぎりまで真っ黒に直しの指示を出して駆け込み入稿だった「晩夏の蝉」の見本刷りが金曜に届いていたので、少しずつじっくり読んで、ついさっきに読了。
誤植らしきもの、指定ミスらしきもの、文体のねじれ、視点のぶれなどなど、あんだけ粘って直させてもらったのに、やはりまだまだ修正すべき箇所がたくさん残ったままの刊行になってしまったが、そんなぎこちない作品でありながら読後感が上々という不思議は、
解説文をお願いした切通理作さんが上手だから。

切通さんの最新刊「失恋論」では、私の小説「これを読んだら連絡をください」を失恋論の参考図書として認定してくださってもいるし、いつぞやはトークショーにもお招き戴いたし、他にも公開恋愛の仲裁&司会役をお願いしたこともあったのだけど、今回の解説文は、解説以上の役割で作品の不出来を大きく助けて下さった。

なんせ、ぎりぎりまで直していたので、実のところ切通さんは解説の原稿を書く時点で完成状態を読めなかったわけで、また直してますゴメンナサイとメールしたらすぐに電話をくれ、
「まさか、まだ直してるんですか?」と呆れた声をあげつつも、細々とした情報の電話取材を20分ほどしてくれた。
解説の中では、それらのことも示されている。

「晩夏の蝉」は10日に刊行、定価は571円+税、文庫本としては安くないし、作品の出来もすぐさまブックオフで100円均一に出されそうな、つまり「手元で大事にしておいて繰り返し読みたい物語」ではないかもしれない、が、切通さんの解説文だけでも571円+税の価値はある、ってくらい、巧い。

思えば、2000年に「明日を抱きしめて」というタイトルで刊行されテレビドラマの原作にもなったのに、本はまったく売れなかったし、ドラマも不運だったし、デビュー四ヶ月後に二作目という荒っぽさのせいで受賞二作目と認識されることもなく、ひっそりした作品だった。
だけど、あたしは自分の書いた小説の中でこれが一番 好き だ。
なんでか、わからないけど、読み返すたび、笑ったり泣いたりしてしまう。
400枚もサラリーマンも事件も会社も、初めて書いた。その思い入れのせいだろう。
だから、文庫にしてもらえて、とても嬉しい。
「鞄屋の娘」の文庫化とのセット販売を渋らずに快諾してくれた光文社文庫にも本当にありがとう。

あー、支えられてるんだなーと思う。(いつかはもう少し巧い作家になると、信じてくれているんだろうから)、もちょっとガンバロ、と思う。(真面目にやらなきゃな、と)。

つくづく、書きたいものなんかないなあ。
デビュー作の担当氏に、いつか中古車を買ってあげると約束した、授賞式の夜。
その後も、色んな人に色んな約束をしたんだけど、未だ最初の約束が果たせていない。
書く理由があるだけなんだよなあ。

小説家になりたい人はたくさんいるけど、小説を書きたい人はあんまりいないよね、って、
いつか誰かが言ってたのを、ずっとずっとずっと覚えていて、
そういうのってやだなと思っていたのに、気が付いたら、なんだ、あたしがそれじゃん、って思って、そう考えると、もうなんか小説なんか書きたくないし、いいや、
って思ってしまったりすることもあって、
AV業界についてアホじゃないかってくらい真剣に考えて自分を捧げている友人18禁・二村と話してたりすると、「いやー、あたしはできれば遊んで暮らしたいのよ。やりたいことなんて何にもないのよ」
なんて言ってたりもするし、
多分それはそれで本音なんだろうけれど、何ってやっぱり、
あたしは、あたしの人生に関わってしまったほんの少しの人たちにまだ信じていてもらいたいし、約束は本気で果たしたいし、注いでもらった労力や友情や愛情や、奢ってくれる心意気と金銭とを無駄にしたと思わせたくないし、
その一心でというか、それを思うと、書き続けるしかないじゃないかとも、その都度に真面目に取り組んでいるのにどうも結果はよろしくないんだとしたらそれが能力の限界なんだから、書き続けることだけがそれらに報うことだろうとも、あれこれ考えるんだけど、
何が書きたい?と問われると、何もない、としか答えられなくて、
書く人は書きたいことがあるから書くのだとしか思えない人も世の中にはいるんだと知ってからは、そう答えちゃいかんのだと頭では判るけど、えーみんな本当に書きたいことがあって書いてんのかよーなんて疑いもあるわけだし、書きたいものがあってそれを書くだけの能力を持っている人なんてそうそう普通に存在してねえーよ、そりゃ理想論だろ、とヒネたりもするのだけど、
それでもやっぱりあたしは誰かが書けと言ってくれる限り書くんだろう。
誰も読まなくても、だ。

そういう感覚だから、売れる小説は書けないとも承知していて、書きたいって気持ちと書きたいことのバランスをうまいこと誤魔化しながらやってくことが職業意識なんだろうとも判る、が、書きたいことなどなくても、書く能力が少しはあって、書きたいと思ううちは書くし、そういうあたしの書くものを読みたいという人も地球上には必ず誰かしらいるにちげえねえ。

昨夜、「永遠を半ばも過ぎて」という中島らもの小説を原作にした「Lie,Lie,Lie」という映画のDVDを観て、そんなことをぐるぐる考えていた。
小説は未読だけど、いい映画だなーと思ったら、あたしが所属している事務所の企画だった。

「マエカワ、当たることやれよ。一度でも当たれば、世の中は変わって、自由になる」と、
社長には常々言われていた。二村にも会うたびに言われる。
背いてばかりなのは、合点がいかないからじゃない。あたしはいつでもその気満々だ。
好きで外してるわけじゃない。
ただ、当たらないだけだ。
なんたって、根が芸人タイプだからね。

今日の点取り占いは、「ラグビーの選手になれる 10点」でした。


  1. 2006/08/08(火) 04:33:04|
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