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仕事部屋

LINE

「へばの」監督の木村文洋監督から紹介された小谷忠典監督のドキュメンタリー映画「LINE」を、ポレポレ東中野のレイトショーで。

息子を持つ女性との将来を考えたとき、小谷くんが向き合ったのは、自分の父親だ。
それまでシナリオや演出のある劇映画を撮ってきた彼が、初めて自分でカメラを手にして、父親や、その父親の背景となる見知らぬ土地に足を運び、そこにいる人を撮った。

出来事ではなく、人を撮る。

それだけの映画だ。

撮りたいものもあったのだろうけれど、彼はきっと、そこにいる人から目を逸らせなかった。
恋人の息子。自分の父親。娼婦。娼婦。娼婦。
物語はない。
語ろうとするものもない。
それはきっと撮ろうとするものがないからで、それなのに撮った映画には何かが残っている。
そのことに一番驚き、感動し、悦びを感じたのは、小谷くん自身のような気がする。

LINEというタイトルは傷を表す言葉として選ばれているようだけど、小谷くんの人生というLINEなんだな、と思った。

映画の後、文洋とのトークがあって、文洋はただでさえ不器用な人だけれども、小谷くんも負けずに不器用な人らしく、二人の会話は労りと尊敬と信頼に基づいたぐだぐだなそれで、たまたまステージに一番近い席で見物することになった私が顔を伏せて笑っているのも見えていたに違いない。
彼らはほんとのことを話さなかったと、思う。
それでも十分に、小谷くんの人柄が滲み出ていた、という点において、文洋は大役をしっかり果たしていたとも、思う。

飲み屋で、映画を観て気になったことをいくつか、小谷くんに質問した。
「~であったなら、それでも撮った?」などと、不躾な質問もした。
彼は「撮らなかったと思う」と答えて、私はずいぶんほっとした。

映画に映されている傷への視線は、彼らしい礼儀正しい距離感で、なんだか物足りない。
刺激に慣れた私たちは、きっと、その傷の物語や、滴る血や、えぐるような視線を欲しているんだろう。
だけど、その傷に、小谷くんの指先が触れたとき、やっぱり私はほっとした。

映画を撮らずにいられなかった小谷くんの傷を思う。
触れたいとも、撫でたいとも、癒したいとも思わないけれど、
彼の人生で一つの点となった映画を観られたことは、幸運だ。

しっかり歩いてしっかり見つめている映画なのだけど、それが、
映画を撮る人の傷、小谷くんの傷であることを、彼自身が撮り始めてすぐに気づいて、
それでも、最後まで映画として仕上げたこと。

それを、もっとたくさんの人に見せたいと思う人がいたこと。
私が観たこと。

物語もなければ、思想もない。
もっと剥き出しの、生々しい何か。

この人には映画を撮っていて欲しい、と文洋が言っていた。
この人は、映画を撮らないと生きていけない人なのかもしれないと、私は思った。
自分は、曝してもらった傷に触れられるけれど、カメラはその傷に触れられない、と小谷くんは言っていた。
触れられない距離を埋めるのは、俗にいう演出ってやつなんだと思う。
だから、次は是非とも、演出のある映画にして欲しい。

台所が美しかった。
生きている場に見えた。
美しい台所はちゃんとパンフレットの表紙にもなっている。
それはきっと、小谷くんが誰よりも正しく、この映画を観ているってことだと思う。
自分がもう、そこにはいないことを、ちゃんと知っている。

映っていたもののことを語りたいとは思わないんだよなあ。
映そうとしたものや、描こうとしたもののことは、どうしてか語る気にならない。
何を撮った、どう撮ったってことよりも、
彼がこの映画を撮ったってことが、すごく大事なことなんだと思う。

そんなふうに思わせる映画だったことだけは、確かだ。

傷やトラウマなんかじゃない、もっと明るく強い、希望とか、現実とかの、そういう。
悲劇には目を向けないっていう、現実を生きていくための、強さそのもの。

正直、この映画は褒めるのも貶すのも難しい。
感想を言いづらい。

それでも私はこうやってたどたどしく言葉を選ぶ。
それだけでも、そうさせる何かがそこにあったことは、きっと伝わる。
LINEはそういう映画で、
彼がたどたどしく映したそれだけでも、彼に映画を撮らせる何かが、そのときにあった、と伝わった。

だから、LINEを褒めるつもりは、特にない。
いい映画だから、面白いから、などの理由で「観て良かった」と思わせるそれとは違う。
ただ、彼が撮り、誰かが観る、それで完結する。
LINEてタイトルは、そこの線のところなのかもしれない。



予告編を作ったのは文洋。これはこれで別ものだ。



LINE

動員が思わしくないらしい。
レイトショーだけど、けっこうな日数をもらっているから、観てくれる人はいるはずだ。

  1. 2010/05/28(金) 04:01:09|
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