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仕事部屋

10.6

目は命なんだなあと思う。

会社を辞めて稽古場付きに入ってるウッチー、誰よりもボロボロの台本片手にひたすら稽古を視ているだけなのだが、しばらくぶりに病欠役者が出たので代役をやらせたら、それなりにウッチーらしさもあって、なんだかちょびっとだけモグラな人としての居場所がありそうに見えた。

見とり稽古は、何より一番の勉強になる。
役者は基本やりたがりで、すぐに腰を浮かせるんだけど、じっと視る、ひたすら視るだけの力が、実は一番重要なんじゃないかなあ。

三年前に小形くんを演出助手に抜擢したのも、私が出た芝居を観ての感想に「お、芝居が観れるんじゃん」と思ったからだし、WSの連中に「稽古いつでもどうぞ」と開放しているのも、通常のWSがお休みだってのとそれ以上の勉強ができる絶好のチャンスだからなんだけど、皆が飛びつくかと思いきや、億劫なのか、それともアルバイト中心の自分の生活が芝居を学ぶことよりも優先されているのか、嬉々として稽古場に通うような奴はおらず、正直これまでそれなりの思いでやってきたWSの存在意義を疑問に感じてしまう。

モグラの出演者の中にもWSに来ている人がいて、その人たちはやっぱり視る力があるんだなあと思う。
観とけって言った映画を観ることや、ちょっと観ててと言ってやって見せる手本を視ることで、すっと変わっていけることがその力で、これは誰にでもできることとは違う。

役者に必要なのは、読む力、考える力、視る力だと思っているのだけど、読むことにも考えることにも生まれ持った頭の具合が大きく影響するわけで、ひたすらの努力と勉強でなんとか身につけられるのは視る力だけだよなあ。

何度か書いたり話したりしているけれど、18歳のときに、つかこうへいさんのお弟子さんだった長谷川康夫さんが、岡本麗さん松金よねこさん田岡美也子さん酒井敏也さんのお芝居で演出をやったとき、ほんの三日ほどだったけど、稽古場に付かせてもらった。
口立て芝居の稽古で黙々何十通りもの台詞を全部書き取って、「マエカワさんが面白いと思った台詞だけ残して、整理してみて」と言われて、役者さんが休憩している間に今口立てで作った場面を台本に起こしてコピーして役者さんに配る。「助かるわあ」と言ってもらえてすごく嬉しかったのを覚えてる。
役者としての居方も、緊張感と温かさを兼ね備えた心地良い稽古場の空気も、台詞回しの技術も、役者の生身の言葉で台本を書くっていう基本も、あの稽古場で覚えた。
あのときに学んだことを、私はずっとやっているんだなあと、本当にそう感じる。

目は命、時間は運命。
稽古場で全身の穴という穴を全開してそこにあるすべてを吸い込んでた時間が、たとえ三日でも、もしなかったら、私は芝居の面白さを知らないまんまに、適当なことをやって適当な気持ちで投げ出して、「えーだってお芝居ってなんかねえ」とか言ってぷらぷらしてるだけの人になっていたかもしれない。

面白いとか面白くないとかの、その先や、その元々を、自分なりに探り出せる時間が、視る時間だと思う。
大変に残念だし申し訳ないと思うのだけど、お客さんに観てもらう時間では、到底それほどのものは得られないだろう。

本気で何かを得たい、学びたいのなら、毎日でも稽古場にいらっしゃい、と言ってあげるほど私は親切じゃあないから言わないけど、そんなものはその人が自分で食いついて齧り取っていけばいいことで、誰かに薦められてやる時点で能無しじゃないか。

だけどなあ、確かにあの頃の私も、「稽古場付き、やってみない?」とプロデューサー女史からお声をかけてもらったとき「ええええー 自分が出るわけでもないのに稽古場に毎日行くんすかあ」と思ったよ。
「勉強できるわよ」と言われて「じゃあ行きます」と答えて、ほんの三日。
誘ってくれた女史にはさぞかし期待外れだっただろうと思うし、私は「根性見せなきゃいけないのにできなかった一生の後悔の一瞬」として、ずっと反省し続けるんだろうなあ。

二日前に、モグラ町1丁目7番地のラストシーンを演出した。
役者たちは台詞もウロ覚え、演出ってほど何かがある場面じゃない。
で、「とにかく、ものすごく考えて厳選した台詞なんで、台本通りに一字一句違わずにやってくれ」とダメ出し。
昨日、もう一度観たら、ちゃんと一字一句違わぬ(多少は目をつむり)やりとりになっていて、それだけで、じーんとくる場面になっていた。

台詞の良さってのは、生身の人の言葉にならないと、絶対に出てこない。
生身の人に見える役者の存在だけが、台詞を立たせるもんだと思う。

あ、また面白いこと思いついた。今日の稽古場でやってもらおう。


【モグラ町1丁目7番地】
お席が少ないのでご予定の立つ方はどうぞお早めにご予約ください。
本当に、心から、観て欲しいのです。

モグラの告知をするのって、両親に「結婚したい人がいるから会って欲しい」って言うような気持ちだ。


  1. 2010/10/06(水) 14:57:36|
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