吉田重幸さんはモグラキャストの中で一番の年長さんだがとてもダンディーで、皆からは敬愛を込めてよっちゃんと呼ばれている。
山本政保さんは、山ちゃん。
よっちゃんは私を「あさこ」と呼ぶけど、山ちゃんは「まえかわさん」と呼ぶ。
よっちゃんは誰よりも生真面目に芝居に取り組む。
元々は黒テントで制作をやっていた人で、お芝居に出るのは龍さんとこと、山ちゃんが主宰する果実の会だけらしい。
でも、こないだまで碧南市の市民劇団の先生を長年続けていて、去年の「モグラ町1丁目」はそのご縁で碧南市公演ができた。龍さんとこで何本も一緒にやってる山ちゃんなんかは碧南慣れしていたけど、私は初めてだったから、ホールが大きくてびっくりしたっけ。
私にとってはずっと「制作の吉田さん」だったから、龍さんのところで役者をやってるのを観たときもびっくりした。その頃はまだ山ちゃんは出てなかったと思う。
私が「真夜中のマクベス」に出たときが二人との初共演で、よっちゃんは「俺あさこと芝居やれるの嬉しくてさ」と、我が侭な私の芝居にも文句一つ言わずに楽しそうにやってくれていた。
お芝居の技術があるわけではないけれど、よっちゃんの佇まいはとても素敵で、それは吉田さんという人の魅力そのものなんだと思うから、難しい役や馴染まない台詞を喋らせるより、よっちゃんがよっちゃんのまんまに立てるお芝居があればいいのに、と思って、「真夜中~」をやりながら「モグラ町」を書いたから、モグラ町でのよっちゃんはとてもチャーミングな人になっていると思う。
役名も「よっちゃん」で、平井家の幼なじみという役所なのだけど、正直、吉田さんをモグラ以上にうまくキャスティングできる芝居はこれからもないだろうってくらい、気に入ってる。

それに引き換え山ちゃんは往生際が悪い。
山ちゃんだって変に二枚目っぽいことやるよりモグラ町で平井家の三男・勝也をやってる方がずっと山ちゃんらしさが出ていて素敵なのに、「あれは演技だから」と言い張る。
もちろん、共演者は誰一人そうとは思っていなくて、「あれこそが山ちゃんそのまんまだ」と思っているんだけど、どうやら山本さんは勝也という役の「変態」というキャラに抵抗があるらしい。
初めてモグラ町を観る人が最初に気に入るのは大概が「あの変態の人」なのに、贅沢な悪あがきだ。
山ちゃんは去年の「モグラ町1丁目」の頃に、長年勤めていた仕事を辞めた。
山ちゃんは高校の頃からお芝居大好き少年で、お芝居やりたいがために勤務時間がきっちりしている公務員になったんだと言っていた。
それを聞いたときには「へえええーえ、そんなにお芝居好きなのにこんなことやってんじゃダメじゃん」と思った。
だから、山ちゃんにやってもらう勝也という役は、山ちゃん生涯一番の当たり役になるよう、書いた。
ちゃんとそうなってるのに、本人はまだ二枚目路線でいくつもりらしくて、自分が主宰する劇団「果実の会」では下手な演出をしながらかっこいい山ちゃんを一生懸命にやってて、そういうところがどうしようもなく勝也なのになあ、と共演者一同が思っている。
どんな役柄でもこなせる役者が巧いのは当たり前のことだけど、そういう役者も自分そのまんまで舞台に立つことだけが苦手だったりすることもあって、私はいつも中身が透けないための「巧さ」なんていらないのになあと思っている。
山ちゃんもよっちゃんも、お芝居はちっとも巧くないけど、モグラ町の時間の中にすっと立って、そのまんまの自分で楽しんでくれているのが見えるから、私は山ちゃんもよっちゃんも「いい役者さんだなあ」と思う。

本人がどれほど否定しようが、山ちゃんには勝也が、よっちゃんにはよっちゃんが、演劇人生最大の当たり役だ。
嘘だと思うならお客さんに訊いてみればいいじゃんね。
山本政保と吉田重幸の「モグラ町1丁目7番地」を観てください。
- 2010/10/12(火) 11:15:39|
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この吉田重幸さんって滋賀出身の吉田重幸さんですか?
- 2021/09/14(火) 02:45:40 |
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関西弁の印象はなかったです。龍昇企画にお問い合わせになっては如何でしょう?
- 2021/09/14(火) 21:08:36 |
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